月別アーカイブ: 2018年2月

大学生なら卒論を (6)

卒論紹介も残り2回です。

西村和香奈(芝﨑ゼミ)「ストレスに強い人と弱い人のちがい ―強い人はどのように対処しているのか―」

ストレスに強い人と弱い人の違いとは何か、ストレスを持っている人がどのくらいるか、対処法などをインタビュー調査した研究でした。ストレスに対しては強い弱いという捉え方よりも、どのように考え向き合っていくかがポイントとのこと。ストレスに対して自分なりに免疫をつくれる人が、いわゆるストレスに強い人ということになる。ストレスは消えないし、なくならないものなので、無理して無くそうとしないだけでも心が楽になると、インタビューから結論づけています。それにしても、このインタビュー結果の一番おどろきだったところは、調査対象12人から、ストレスに弱い人が見つからなかったということ。多くの人が、ストレスあるけどなんとかしているということなんでしょうか。

濱野吾郎(梅田ゼミ)「働きアリはなぜ卵を生まないのか」

女王アリは巣に1匹しかいないのに、アリの巣はものすごいスピードでふえていることに疑問を感じて始めた研究です。トビイロケアリで飼育実験を試みたところ、1ヶ月でなんと全滅。外にいる働きアリを捕まえてきたものの、外の働きアリはおばあさんアリだというのが原因のようです。中にいる若い働きアリを捕まえてきて再度飼育実験。その結果、働きアリだけであっても卵を産み繁殖したそうです。女王アリがいなくても繁殖するにも関わらず、女王アリがいるのはなぜかという考察では、女王アリがいる方が効率的であることを挙げていました。女王アリはオスメスの産み分けもでき、働きアリに役割を与えることで効率よく繁殖できるそうです。働きアリが巣にもどれなくなったとき、最初は女王アリのいない特殊な巣になりますが、オスアリが来ると、交尾によって女王アリが作り出されて、本来の巣に戻るということです。

身近にいる昆虫を題材にしても、まだまだ興味深いことができますね。動物に発信機をつけて位置情報を取得することで、動物の新しい生態が分かるということがありますが、アリは、その小ささ故に、他の動物と同じような方法が使えないところが面白いところです。

福田潤一(渡邊ルゼミ)「『ONE PIECE』における「子ども時代」の意味」

ONE PIECEでの、ルフィ、エース、ナミの子ども時代について紹介し、作品におけるその意味を考えるという研究です。子ども時代はそれおれの夢につながっていて、その夢が成長してからも変わっていないところが作品の魅力になっていると分析しています。

いわゆる大作において、人物を掘り下げていく手法として、過去を描くということがあります。朝ドラや大河ドラマでは、その人物の子ども時代から始めていくやり方が当たり前です。漫画などでは、完全に時間順にするわけではなく、後から過去について描くこともあります。その過去と、現在に差を持たせることで、その人物のターニングポイントがあったことを示唆することもあります。

より多くの作品を対象にして、長編漫画での時間の流れについての分析なども面白いのではないかと思いました。

藤田剛志(梅田ゼミ)「犬の殺処分を無くす方法」

ドイツでは殺処分がゼロ。日本ではどのようにしたらゼロにできるのかについての研究でした。ドイツでは犬の大きさに対して、動ける範囲や窓の大きさなどもきめられていて、ペットショップがないそうです。飼いきれなくなった犬は、将来的な譲渡を目指して保護され、毎年1万匹が新しい飼い主へわたるようです。日本とドイツの根本的な違いとして、ドイツでは自然は人間が管理するものであるという考え方があり、日本は自然をコントロールできないという自然観がある。この自然観があるため、出生の段階での規制よりも、保護施設に預けられた犬の出口を広げることが大切であると考察しています

自然に対する人間の考え方は、国単位でも違いますし、日本であれば地域毎にもかなり違うでしょう。桜島などを見ると、毎日これ見て生活している人は、そうでない人には持つことのできない自然観を持つのだろうと思います。逆にいえば、他の国の文化を理解するためには、その国の自然観を理解することが必要だと思わされる、興味深い発表でした。

松澤謙希(潮谷ゼミ)「ノーマライゼーションの基本的考えとその拡がりについて」

この研究では、ノーマライゼーションの概念に関わる3人を分析し、ノーマライゼーション思想について述べ、そこから生まれた思想として、インテグレーション、ソーシャルインクルージョン、ピープルファースト、バリアフリー・ユニバーサルデザイン等について述べています。最後に、日本での地域包括ケアシステム構築のために、ノーマライゼーションの実現が求められているとしています。

バリアフリーは、既に多くの人に浸透している言葉だと思いますが、そこに至る思想の流れなどは意識したことはありませんでした。ユニバーサルデザインも、学生に対して説明することがありながら、その源流には知らず、自分の不勉強さを痛感させられる発表でした。

松田賢太(渡邊ルゼミ)「『のりもの絵本』の世界―〈仕事〉が教えてくれるもの─」

のりものが擬人化された「のりもの絵本」について分析した研究でした。 働くということに触れることができる、海外や日本の乗り物絵本を紹介していました。最も有名なものはきかんしゃトーマスのシリーズで、多彩な生きたキャラクターによりリアリティのある世界感が描かれているとしています。タイプの異なる同僚の存在などは、確かに現実社会と同じですね。

様々なのりもの絵本の共通点として、読み手の「創造性」を刺激すると分析していました。自然と仕事や働くことを描き、失敗や成功に触れることができるため、失敗を負の方向に解釈して創造性を封印してしまうことを防げると考察しています。

確かにのりもの絵本は印象に残りやすいですね。国が違っても同じように機関車の擬人化が行われていたりしますから、仕事をする機械を擬人化するということには、世界共通の意義があるのかもしれません。思い入れのある機械の話をするときに「この子は…」みたいに話す人も多いですよね。

今日はここまでです。次回は卒論紹介最終回です。

大学生なら卒論を (5)

お昼休みをはさんで、発表会後半戦の開始です。

武田美侑(芝﨑ゼミ)「学校の楽しさを決めるのは何? ―友達か勉強か―」

学校の楽しさを決めるのは勉強か人間関係か、小学校2年生を対象にした10項目の質問からなるアンケート調査結果から分析しています。質問項目は、自分や友達のことが好きか、大切か、学校や勉強のことが好きか、楽しいか、さらに自己主張ができるかなども聞いています。学校の楽しさと相関が高かったのは、人間関係よりも勉強が好きか楽しいかという分析をしています。勉強が好きになり、互いの意見を尊重し、自己主張がしっかりとできる人間関係をつくることが大切だと結論づけています。

やはり学校にいる時間の大部分は授業なので、勉強の楽しさが学校の楽しさになるということなのかなと思います。友達と学校で遊ぶ時間は限られていますしね。授業時間に友達と一緒に学ぶ楽しさは、勉強が楽しいという形で現れるのかもしれませんね。学級崩壊するようなクラスだと違う結果がでるのではないかという質問がありましたが、学校来ているなかでもつらい思いをしているこどもはいるので、学級崩壊していないクラスで実施したアンケートにも意味はあると、きちんと答えていたのは立派でした。

田中悠太(芝﨑ゼミ)「嘘を見破ることはできるのか?」            

嘘をついたときに見破ることができるのかを明らかにするという研究でした。被験者に、嘘をついているときとそうでないときの2種類の映像をみてもらい、嘘をついているのかどうかを判定してもらっています。音声をなくしたときの方が嘘を見破りやすいという結果を得ています。音声がない方が、嘘をついたときの行動に着眼することで、嘘が分かりやすくなるそうです。

調査人数は少なかったものの、音声がない場合はほとんどの人が嘘を見破っていました。逆に見破れなかった人はなぜ見破れなかったのかが気になりました。

土井幸江(渡邉由ゼミ)「ある保育士の保育観・保育実践の聞きとり調査」

ある保育士の保育観、保育実践の聞き取り調査を実施し、自分の気持ちの揺り起こしがどのようにあったかを詳細に分析する研究でした。子どもと自然との関わりを大切にすることなど、自分と同じ点を見いだすこともできたようです。

自分の保育観を形成する過程で、1人の保育士の聞き取り調査を実施するというやり方がどのように効果的なのかを、より多くの例で分析したら面白いのではないかと思いました。

豊田一心(渡邊ルゼミ)「『ドラえもん』に見る人間の欲求と成長」

エスカレートする欲求をテーマにしたドラえもんの道具についての考察でした。ドラえもんの道具は基本的に、何らかの欲求に対応したものなので、一見すると広がりがありすぎて収拾がつかないテーマであるようにも思いますが、この研究では、人を成長させる欲求として、他人を支配したい欲求と、向上心につながる欲求に焦点をあてることで、分析を可能にしています。悪い欲望を秘めた自分を知り、罰を経験して成長するプロセスがあること。自分が経験していない感覚や世界を知りたいという欲求や、人のことを想う要求が、成長に繋がることも、ドラえもんの道具を通じて描かれているとのことです。

子どものころ何度も読んだドラえもんですが、久しぶりに読みたくなってきました。欲求をテーマに読んだら、子どものときとは違う楽しさがありそうです。

中川朝夏(渡邉由ゼミ)「自閉症の子どもとかかわる思想」

放課後児童デイサービスのアルバイト経験が、この研究テーマを設定するきっかけとなったそうです。障害のあるこどもについて詳しく知りたいという思いからスタートした研究は、次第に自閉症で作家の東田直樹の著書を研究対象として分析していくようになったようです。分析していく中で、自閉症の再定義の必要性があるのではないかという結論を導いています。自閉症はコミュニケーションをとることができると再定義することで、ハンディキャップを持っている人が生きやすくなると提唱しています。

言葉の定義の重要性を強く認識させられる研究です。論理的に間違えていない定義の仕方でも、誤解されやすい(論理的に解釈されにくい)やり方であれば、誤解が拡大するだけでしょう。論理的に間違えていない表現方法は、理論的に構成できますが、誤解されにくい最適な表現方法を選択することは難しそうです。

難波紗愛(梅田ゼミ)「国立公園のインタープリテーションにおけるビジュアルデザイン ~オーストラリアと日本の公園の比較を通して~」   

持続可能な国立公園の先行事例としてオーストラリアのクイーンズランド州の国立公園を分析しています。現地調査して国立公園のレンジャーにもインタビューしているので、行動力溢れる卒論になっています。日本の国立公園も実地調査をして、公園職員にインタビューをしています。

ブログの筆者は勉強不足でして、まずインタープリテーションやインタープリターという言葉の持つ意味をしっかりと理解していない状態で発表を聞いていました。インタープリテーションは、自然について詳しいひとがそうでない人に教えてあげるということのようですが、教育でありエンターテイメントでもあり、創造的な活動だと説明しているサイトがありました。レンジャーは公園を管理する職種ですが、インタープリターというのはインタープリテーションができる人ということで、職種ではありません。

発表の内容に戻りますと、特に国立公園の看板に注目して、そのビジュアルデザインを比較研究しています。結果として、オーストラリアの看板の方が、公園のシンボルマークをうまく使い、統一的なデザインとなっていて、公園を地球の長い歴史や生態系の中に位置づけた紹介がされているなど、素晴らしいものであったということです。職員の知識の豊富さなどもオーストラリアの方が素晴らしく、公園内の見過ごしがちな動物などの話もしてくれるとのこと。地域との連携もとれているようです。日本の問題点として、国や都道府県が単一で運営を行っているため、地域の魅力が発信できていないことを指摘しています。地域と国が共同して日本の国立公園をリニューアルしていくしくみ作りが大事だと結論づけていました。

確かに日本で○○国立公園に遊びに行こうという話題にはならないですね。行先が国立公園であることは全く意識しないで遊びに行き、結果として行先が国立公園であったというだけのような気がします。世界遺産の場合は、世界遺産の○○を見に行こうという目的で行く人が多い気がしますね。国立公園という言葉に魅力を感じている日本人が少ないことの原因と解決方法を提案している点で興味深い研究です。

大学生なら卒論を (4)

前回の続きです。各卒論への個人的な考えや感想を記しますが、論文を書いた学生や指導した先生からは「その見方はおかしいよ」ということもあると思います。その場合は、私までお知らせください。

佐々木志帆(芝﨑ゼミ)「子どもの出生順位と性格との関連」                                                                           

子どもの出生順位と性格との関連については、一般的には関連があると考えられていましたが、2015年に、出生順序がその人に与える影響は限りなくゼロに近いという研究結果が発表されたそうです。この研究では60名を対象にした25項目のアンケート結果を、長子、中間子、末子別に集計しています。アンケート項目は親との関係を問うものであり、育てられ方に違いがあるか、性格に影響があるかを調べています。その結果として、長子は責任感が強くしっかりもの、中間子は独立心が強い、末子はわがままでマイペース、という世間一般のイメージの通りではないという結論を得ています。インタビューからも同様の結論だったようです

フロアからの質問として、世間一般のイメージとは違うとしても、出生順位によって育てられ方に違いが分かるという結果が得られのではというものがありました。そのように見える質問項目もあります。

プロスポーツ選手は次男が多いという話もありますし、出生順位は関係ないと言われてもなかなか信じにくいですね。だからこそ、出生順位に関係ないという結果が注目されるのだと思いますが。

多くの人が関心があり、まだまだ本当の結論は出ていないのではないかと思わせる、興味深いテーマでした。

佐々木雄大(渡邉由ゼミ)「現代の若者における『友情』とは何か」

インターネット社会における人々の友情関係の違いと、それによる課題をつきとめようとする研究でした。人とのつながりを、利益利得の関係と繋がることそのものが目的のものとに分類して考察しています。AIの友達はあり得るのかといった質問もありました。そのような時代だからこそ、より人との繋がりが重要になると思っていると考えているようです。

新しいツールの存在が、人間関係にどのような影響を与えるのかというのは、そのツールの存在する意義を知る意味でも重要なテーマです。人とのつながりということに関しては、ダンバー数というものがあり、親しくつながることができる人数の上限は150人程度だと言われています。このダンバー数を根拠として、インターネットでの非常に多くの人とのつながりは希薄なものだとする考え方があります。このあたりにも触れて掘り下げてくれると、さらに面白い研究になったのではないかと思いました。

志原晃介(梅田ゼミ)「鉄塔の生み出す電磁波の危険性」            

4mG以上の磁気で人体に影響があることが多くの国で報告されており、日本でも門真市の変電所の近くの住民のガンの発生率が高いという報告があります。この研究では、実際に東大阪市と門真市の電波塔や変電所周辺での磁力を気象条件を揃えた上で測定しています。電波塔の周辺から23.9mGや9.2mG、変電所の近くからは3.8mGや8.0mGといった数値が測定されたそうです。100m以上離れると1mGも測定されないようであり、この距離が健康被害のない距離だと報告しています。

携帯やスマホなどの電磁波の身体への影響などが注目されているなかで、それよりも電波塔の磁力の方が値が大きく、都市部では問題となっているという興味部会結果でした。活断層の研究もそうですが、居住するのに危険性の高い地域を特定する研究というのは、その結果が住民に及ぼす影響が大きいため、結果の発表がなかなか難しいという現状もあるでしょう。自分の住んでいる地域の環境については、自分が積極的に知ろうとしなければならないということを、この研究は示唆していると感じました。

嶋恵亮(渡邉由ゼミ)「古民家の現代的意味―人が落ちつきを感じる理由とは―」

なぜ木造建築が好まれるのか、なぜリラックス効果を感じるのかなどを分析し、古民家の定義や価値、古民家による地域活性化について調べた研究でした。古民家のビジネスとしての大きな可能性に注目しています。

変化の激しい時代では、数十年前のものがいつのまにか別の価値を持ってしまうことがあるという点が面白いですね。

曽田志穂子(梅田ゼミ)「四つ葉のクローバーの成育条件」         

図鑑によれば、四つ葉のクローバーは三つ葉が踏まれてはがきれて四葉になるとあり、論文には、斑紋が明瞭か不明瞭かで四つ葉の発現に違いがある遺伝的なものだとされているようです。これらを検証しようという研究でした。実際に三つ葉のクローバーを踏んでみたり、切れ込み入れてみても四つ葉にはならなかったようです。実際に四つ葉が多く生息している地域の特徴から、土の湿度が関係あるのではないかと着目して調べています。土の乾燥した場所では、クローバーの根に根粒細菌が共生し、その遺伝子がクローバーの遺伝子に作用して四つ葉のクローバーが発現した可能性を指摘しています。

フロアからも質問が多数でており、このテーマの難しさがよくわかります。調べることで、様々な可能性を見つけることが出来ますが、それが原因だということを断定することはとても難しいのです。仮説を実証することの難しさをあたらめて実感しました。

今回はここまでです。午前中の発表についての紹介が終わりました。午後の部がまだ残っており、丁度半分紹介したところです。

大学生なら卒論を (3)

前回の続きです。各卒論への個人的な考えや感想を記しますが、論文を書いた学生や指導した先生からは「その見方はおかしいよ」ということもあると思います。その場合は、私までお知らせください。

加地優大(芝﨑ゼミ)「嘘は見破られるのか」

質問に対して嘘をついているかを見破るときに、視線、動作、言葉(発言)のどれを手がかりにすると最も見破りやすいのかを実験した研究でした。小さな紙きれを片方の手に隠した人に、「隠している方の手を見てください」「隠している方の手に力を入れてください」「どちらに隠しているか答えてください」というような質問をします。隠している方に視線を向けるように指示したときが、最も嘘が見破られるという結果を報告していました。「目は口ほどにものをいう」は本当だったという結論でした。諺を裏付ける結果になったということは興味深いことです。そして、人をだます犯罪も、相手に姿を見せることなく電話を使ってだますことが多いなと、ふと思うのでした。

鴨田優花(芝﨑ゼミ)「聴覚障がい者は自身の障がいについてどう受けとめているのか」

コンビニエンスストアでのアルバイトで聴覚障害のお客様に出会ったことが、このテーマに取組むきっかけとなったそうです。補聴器などをしていなければ、聴覚障害者だということは一見ではわかりません。災害時に、聴覚障害者が、情報を得ることが遅れたために逃げ遅れたケースがあります。聴覚障害者であることを分かってもらわないと、音声による情報を与えただけで十分だと思われてしまいます。この研究では、障害者に対して健常者が持つべき配慮のみではなく、障害者自身が、自分を知ってもらうために情報発信することの重要性に触れています。その上で、災害時には、地域の人々が聴覚障害者と共に避難するような関係づくりが大事だとのことです。

私自身、聴覚障害の学生の卒論指導をしたことがあり、そのときのことを思い出しました。情報格差をつくらないようにすることは本当に難しいです。発信者、受信者共に配慮すべきことがあるというのは頷けます。

川崎翔(梅田ゼミ)「ベランダで稲を育てる方法」

都会の幼稚園・保育園での自然体験としての米作りを成功させるために、ベランダでの米作りを、土や日光などの条件を変えて実験した研究です。光の必要性があらためてわかり、田んぼの土よりも赤玉土や培養土の方が十分に収穫できたそうです。その理由として、赤玉土と培養土は、栄養分を分解して稲の根に供給する微生物の住む空隙が多いことであると考察しています。

都会の子どもたちに米作りを成功させるための条件が分かったということで、米作りに挑戦する幼稚園・保育園にとっては、とても意味のある結論がでたといえます。

古泉元希(梅田ゼミ)「炭酸は何を溶かすのか」    

コーラが骨を溶かすという俗説について検証した研究でした。魚の骨、乳歯、サンゴの骨格、カキ殻、コンクリートを、ウィルキンソン、三ツ矢サイダー、コーラの3種類の炭酸水に溶かす実験をしています。コーラで溶かしたサンゴが一番溶けているので、これが俗説の原因だとしています。エナメル質で守られた歯は炭酸でも溶けませんが、虫歯状態になると溶けてしまうこともわかったようです。

10日間かけて溶かしているので、実際に同じことが口の中で起きるわけではないですが、歯磨きの大事さを子どもに伝える実験ですね。

酒井将治(渡邉由ゼミ)「第一印象が人に与える影響とは~企業が求める学生像を探る~」                                 

出会って6秒程度で決定される第一印象に関する書籍や就職活動の本などを調べて、第一印象が良い人、良くない人の特徴や、印象をよくする方法を挙げていました。第一印象の悪さを挽回することは非常に難しいと同時に、出会って少し話をする程度の時間帯に与える第二印象のときに挽回するしかないようです。

大学は4月になると新しい人が沢山キャンパスに現われます。お互いに良い第一印象を持つことができるように、第一印象に関する知識を持っておくことは意味がありますね。

笹井靜(芝﨑ゼミ)「男女の嫉妬心に違いはあるか」         

一般的に、男性は経済力や社会的地位に、女性は容姿に嫉妬すると言われているなかで、経済力や社会的地位が同じ学生で調査したらどのようになるのかという研究でした。インタビューから分かったこととして、嫉妬をしない人は安心している人であり、相手から束縛されているそうです。相手の好意を確認できるので余裕が生まれ相手を束縛しなくなります。結果として、相手は自信が持てないので自分のことを束縛するというループがあるそうです。学生の場合、男女に関係ないという結果となっていました。学生から社会人になると急に変わるのかはなぜなのかという質問がありました。不思議ですね。

今回はここまでです。続きはまた後日に。

大学生なら卒論を (2)

さて、今日からは2月6日の卒業研究論文発表会の様子を伝えていきたいと思います。各卒論への個人的な考えや感想を記しますが、論文を書いた学生や指導した先生からは「その見方はおかしいよ」ということもあると思います。その場合は、私までお知らせください。その指摘自体がブログのネタになりますので、大歓迎です。

全ての発表を見終えた感想を一言でいうなら、「予想を上回る卒論が多くて大いに楽しめた」でしょうか。それでは発表順に紹介します。

岩井惇(梅田ゼミ)「都会のクマバチはどこに巣を作るのか」      

自然観察に適した昆虫であるクマバチを対象とした研究でした。枯れ木や古い木がない都会でどこに巣をつくるのかを、学生が自らの足でクマバチを追いかけて探しています。防虫効果があるはずのクスノキに沢山の巣穴があったり、枝を足で掴んで口で穴を空けるために、幹や枝がザラザラの温帯性の樹種のみに巣があったりなどの発見を紹介していました

昆虫の生態など、まだまだよく分かっていないことが沢山ありそうです。マス・メディアにもよく登場するスズメバチではなく、クマバチを調べるというのがよいですね。

大石貴宏(梅田ゼミ)「幻の上町断層は実在するのか」

重力地図に基づいて断層の場所を推定して、GoogleMapと照らし合わせながら、歩きまわって断層の存在を示唆する壁の亀裂や石垣の大きなずれを発見していました。昭和以降にも断層の活動があることが分かったり、断層の証拠となるもの全てが南北に一直線に並んでいたということで、非常に面白い結果でした。

自分の足を使って、推定した断層の場所を確認していましたが、理系の研究の基本ですね。そのプロセスを体験できたことはとてもよいことだと思います。自分の足では辿り着けない場合や、人間の目では見ることが出来ない場合には、人工衛星やらカミオカンデなどが登場するわけですが、人間の力でも、まだまだ面白い研究ができますね。

阪神淡路大震災以前は全く注目されていなかった「活断層」ですが、熊本の地震もあり、非常に重要な研究対象です。多くの人が自分の住む場所の近くの活断層については知っておく方がいいでしょう。

面白い研究だったので、少し紹介が長くなってしまいました。

岡田智(吉岡ゼミ)「日本における食生活と平均寿命の変化―昭和期から現在―」

食に対する意識と寿命の関係についての研究でした。健康という言葉についての認識が、日本では、病気でなければ健康なのに対して、WHOの健康定義では、いかなる状態においても完全であることが健康であるとしているなど、根本的な考え方が違うということに触れていたのが興味深いものでした。

何を食べれば、健康で長生きできるかということは多くの人が関心を持つテーマであり、また、「〇〇が体にいい」という常識が実は間違いであったりなどということもよくあります。食生活と健康・寿命の関係は、長い時間をかけたデータ収集と分析が必要でしょう。その意味で、重要なテーマの卒論だと思います。

岡野大(渡邉由ゼミ)「大学生のギャンブル依存症と課金型ゲームアプリの関係性」                                                                     

アプリの課金とギャンプルの違いについての分析が興味深い研究でした。学生対象のアンケートによると、ギャンブルには悪いイメージがあるのに、アプリの課金になると「趣味に費やしたお金」という認識になってしまうとのこと。ギャンブルには破産のイメージがあるが、アプリの課金にはそれがないらしいです。今後、アプリの課金で破産した人の話などが報道されるようになると状況は変わるのでしょうか。

スポーツの世界では、リスクを冒して得点を取りに行く場合に「ギャンブル」という言葉を使います。勝つためには推奨される行為です。アメリカンフットボールでは、しばしば4thDownギャンブルがあります。先日のスーパーボウルでもありました。「ギャンブル」という言葉の持つイメージも人によってかなり違うのだろうなと思います。

岡本成広(潮谷ゼミ)「待機児童問題の現状について」                                                                    

待機児童の現状を調べ、改善案を示す研究でした。保育所不足の要因として、土地生産性の低さなどが原因であることや、保育士の年収の問題を挙げていました。給与改善のためには、保育士を必要としている地域を割り出して、部分的に保育士給与を上げるという案を主張していました。これから先、保育士になろうという世代にとっては、給与はやはり最大の問題ですね。

小倉朋佳(芝﨑ゼミ)「不登校児に、私達ができること」                                                                        

正義感も強く、小学校では活発だったAさんが、中学1年のときに不登校になってしまった事例から、特に家族がどのように関わっていったのか、不登校になってしまったAさんとの関係がどのように変化していくことが望ましいのかについての研究でした。家族は、担任の先生に相談させたり、学校のカウンセリングを受けさせたりしたが、先生との信頼関係がなかったり、相談センターでは何を聞かれるのか怖がったりするなど、改善が見られなかったとのこと。しかし、無駄に思えたこの家族の動きは、家族のAさんへの対応が「心配」から「受け入れる」への変化を導き、実は意味があったということが興味深いものでした。

今回はここまでです。次回(明後日くらいかな?)をお楽しみに。

大学生なら卒論を (1)

本日2月6日は9:00より8号館3階の大教室にて平成29年度東大阪大学こども学部こども学科卒業論文研究発表会が開催されます。

年末のブログにて、丹山ゼミの卒業研究発表会を紹介しました。芸術系のゼミは、作品発表や演奏会が集大成となりますが、その他のゼミは卒業論文研究発表会が集大成です。すでに論文は完成し、あとは発表会を残すのみとなりました。

最近は、卒論を書かなくても卒業させてくれる大学もあるようですが、それでいいのでしょうか。筆者は東大阪大学歴1年目の教員ですが、うちの大学の年間スケジュールに卒論発表会があると分かったときは安心し、嬉しくもありました。やはり大学はこうでなければ。卒論あるいはそれに変わる集大成的なものを経験せずに卒業なんてありえないと個人的には思います。

例えば、サッカーチームに入って日々練習したとしても、試合をしなければ楽しくもないし、その練習にどのような意味があったのか分からないですよね。卒論に取り組まないというのは、サッカーチームに入ったのに、一試合もせずに練習だけして辞めてしまうことと同じです。

本日の卒業研究発表会はいわば4年間の練習の成果を発揮する試合です。練習をしていれば、何の心配もなく自信を持って試合を迎えることができますが、練習できていなければ不安な状態で試合に臨むことになります。

どんな試合を見せてくれるか楽しみにしています。発表会の様子については、何回かに分けて、少し詳しく紹介していきたいと思います。東大阪大学で何を学ぶことができるのかを、お伝えします。