卒論紹介最終回です。午前9時から始まった発表会も、これから紹介する最終グループが発表するころには午後4時をまわりました。
水野圭貴(渡邉由ゼミ) 「餃子の王将の経営理念『全従業員の幸せの実現』について」
自らが働く餃子の王将を題材とした研究でした。従業員対象のアンケートをとって、その結果に基づいて店舗の職場環境を改善しています。平日と土日の時給を変えるなどでシフトが回るように改善したという報告もありました。
1店舗の状況を改善したというのは大きな成果ですね。同じアンケートを、より多くの店でやって同じように効果がでるということであれば、アンケート項目が非常にうまくできているということが言えます。多くの飲食店共通の従業員対象アンケートと改善方法ということであれば、これは飲食店経営者が誰でも欲しがる貴重なものになるはずです。働き方に関する議論が活発な昨今ですから、今回の一例をきっかけにして、より普遍性のあるものに拡張することをだれかやってくれたらと思います。
森田悠太(梅田ゼミ)「なぜ絵本には虫や爬虫類が描かれるのか」
絵本にはたくさんの動物が描かれます。子どもにとって、他者を意識させることが簡単だということが理由としてあります。そのため、イヌやネコなど人間が身近に触れ合うことができる動物が多く登場します。しかし、あまり身近ではない爬虫類が描かれていることもあるため、なぜ爬虫類を登場させるのかについて考察した研究でした。
動物絵本に出てくる爬虫類(ヘビ、カメ、トカゲ)がどのような存在で、何を伝えようとしているのかを分析しています。主人公が嫌なことや怖いことに遭遇したときや、会ったことも話したこともない他者に出会ったときに爬虫類は効果的に描かれているそうです。爬虫類は他の動物との比較の中でかかわりあうことで、重要な役割を果たしていると考察しています。
子どものお話に登場する爬虫類というと、個人的には、人間が爬虫類に姿を変えられてしまうような場面が、漠然とした嫌な記憶になっています。イヌやネコに変えられてしまうのに比べて、とても嫌な感じがします。嫌われるもの、身近でないもの、人間とはかけはなれた他者にされてしまうというのが、子どもの私にはきつかったのかなと、この卒業研究を聞いて思い出してしまいました。
山本克範(梅田ゼミ)「公園の砂が発する放射線」
東大阪市各地の18か所の公園に行き、放射線測定器RADEX1706を用いて、真砂土のグラウンドの上1mで放射線量を測定した研究でした。年間換算値は平均1.2mシーベルト/yということで、関東の自然放射線量より3~6倍高く、西日本各地にあるモニタリングポストよりも有意に高いそうです。福島の放射線汚染地のグラウンドと同じ放射線量をもっているということですから、驚きの結果です。
2011年の原発事故以来、放射線量が多くの人に認識されるようになりました。放射線量という量が科学的に理解しにくいため、テレビ等でも、間違えた理解を声を大にして発表する有名人もいました。この研究の目的の一つが、通常の状態を測定しておくことで、災害時に比較できるようにしておきたいというものでしたが、非常に重要なことだと思います。科学的リテラシーを向上させることで、いい加減な報道や声が大きいだけの有名人に惑わされることなく判断できるようにすることが大事です。
米川瑞希(吉岡ゼミ)「乳幼児期の子どもの育ちから乳幼児期の教育を考える」
乳幼児期の知識詰め込みが学力向上に繋がるのかをテーマにした研究です。乳幼児期の教育とは何かを大学のこども研究センターでの実践を通じて考察しています。乳幼児といっても、月齢がちがうだけでもかなり違いがあります。こどもたちを14日間観察し、乳幼児期での研究とは、「子どもが自然に生活の中で学ぼうとしていることを確認しながら、その刺激となる環境を用意することが必要であること」あらためて確認できたそうです。したがって、遊びを作り出す保育者の働きかけが大事ということになります。
興味深いテーマですが、実際に知識の詰込みをされた子どもを観察するというのは難しいですね。知識の詰込みをやらせたがる保護者は、うちのこども研究センターには子どもを連れてこないでしょう。こども研究センターで知識を詰込むわけにもいかないですしね。その意味では、これはとても難しいテーマなのです。こんなことをするのがいい教育ですよという研究は、自分がよいと信じることが正しいかを証明する研究になりますが、こんなことをしても意味がないですよという研究は、自分が意味のないと思っている方法を率先してやるわけにはいきません。ここに教育に関する研究の難しさがあります。どちらの方法がよいのかを試すときに、悪い方法で学ぶ学習者を誕生させることになってしまいます。
渡部天龍(渡邉由ゼミ)「色彩心理が人に与える影響―人は色をどう感じ取るのか―」
色彩心理が人に与える影響について、インタビューを実施して考察した研究です。インタビューでは、好きな色、その理由を聞き、購買意欲を高める色について分析しています。しかしながら、一度まとめた後で、色彩を考えるときに、日本だけで考えてはいけないことに気が付いたそうです。
どの色が見えるのかということは生物にとって重要な能力です。人間の目は色彩をとらえる能力も、細かなところをみる能力も優れています。食べ物が食べても大丈夫なのか、人間はまず見た目で判断できます。見た目で大丈夫であれば、においを嗅ぎ、においが大丈夫であれば、食べてみるという順序でしょう。色の識別は食べ物の選択につながります。ですから、購買意欲が色で決まるというのも、人間が何かを選択するときに色を大きなキーにしていることの現れだといえます。その意味では色と人間の関係を日本だけで考えてはいけないという考え方はよいのではないかと思います。
欠席者はなく、全員が発表を終えました。