遺棄罪について考えてみます。保護者が子どもを車内に置いたまま遊興施設で遊び、子どもが死傷する事例がなくなりません。
刑法は遺棄について、まず217条で「老年、幼年、身体障害又は疾病のため扶助を要する者」を遺棄した場合、1年以下の懲役に処すと規定しています。
さらに218条は「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者」が、遺棄又は生存に必要な保護をしなかったときは3月以上5年以下の懲役に処すと規定しています。
後者の方が刑が重いですね。違いは「保護する責任」があるか否かです。
行為も前者は遺棄だけですが、後者は遺棄に加え不保護も加わっています。遺棄とは危険な場所に置き去りにしたり、移置したりすることです。
ただ、217条の場合は保護責任が規定されていませんので遺棄は移置に限定する考えが有力ではあります。
さて、この遺棄罪という犯罪は後者すなわち保護責任者遺棄罪での立件が多く、女性が犯す割合が高い犯罪です。
理由は明白です。児童虐待に見られるように母親が乳児の世話を行わないような事案、あるいは前述したような事案が多いからです。なおこの犯罪は故意犯ですので違法行為の認識が必要です。認識の有無について裁判でよく争われたりします。
さてこれらの犯罪を行い、人を死傷させてしまった場合はどうなるのでしょうか。
刑法は219条で「傷害の刑と比較して、重い刑により処断する」と規定しています。傷害罪は15年以下の懲役(204条)、傷害致死罪は3年以上の懲役(205条)という規定です。
したがって、例えば保護責任者遺棄致傷の場合3月以上15年以下の懲役、保護責任者遺棄致死の場合3年以上の懲役ということになります。なお死傷について故意があれば当然、殺人罪、傷害罪が成立します。
実際の裁判では再犯であるか、複数の犯罪を行っていないか、未遂等、法律上の(刑の)減免事由に該当しているか、情状酌量の余地があるかなどを考慮し刑が出されます。
いずれにせよ、こうした犯罪がなくなることを切に祈ります。