連載テーマ「生活」:認知症の人の生活の質(QOL)について

生活の質(Quality of life: QOL)という言葉があります。介護福祉士養成のテキスト1)によると、QOLは、「その人らしい生活を営むことができる度合い」と書かれていました。考えれば考えるほど、とても難しい意味に感じられます。
私は、認知症の人の徘徊や、もの盗られ妄想、抑うつ、興奮といった「行動・心理症状(BPSDと呼ばれています)」についての研究をしています。昔は、“問題行動”と呼ばれていました。本人にとっても、介護者にとっても負担が大きい症状と言われています。そのため、このBPSDを軽減することが認知症ケアの重要な課題となっています。
しかし、介護における大切なこととして、BPSDを軽減することが目標になってはいけないということも重要な考え方です。つまり、たとえば認知症の人の興奮や、繰り返しの不安の訴えなどといったBPSDが、何らかの治療・対応により軽減したとしても、一日中テーブルにつっぷして過ごすようになってしまったり、長い時間横になって過ごすようになってしまったりしては、良い治療・介護を行っているとは言えないということです。BPSDが軽減した一方で、他の適切な行動も起こらなくなってしまったということは、介護の現場でよく見受けられるため注意が必要です。BPSDだけではなくQOLもあわせて考える、QOLを向上するためにBPSDを軽減するという視点が大切です。
ただし、認知症が重度になった際に、QOLをどのように測るのかということは現在も研究者の間では議論になっています。認知症の人が自分で評価したQOLと、周りにいる人が観察により評価したQOLの間に違いがあるということです。本人の評価を大切にすべきですが、認知機能が重度に障害された場合に、その人らしい生活の度合いがどの程度正確に評価できるか、周りの人の観察による評価よりも正確なのか、なかなか難しい問題です。こういうことについて、大学で一緒に考えてみませんか。

1) 介護福祉士養成講座編集委員会編 (2019) 最新 介護福祉士養成講座 3 介護の基本Ⅰ. 中央法規出版