月別アーカイブ: 2023年5月

連載テーマ「生活」:認知症の人の生活の質(QOL)について

生活の質(Quality of life: QOL)という言葉があります。介護福祉士養成のテキスト1)によると、QOLは、「その人らしい生活を営むことができる度合い」と書かれていました。考えれば考えるほど、とても難しい意味に感じられます。
私は、認知症の人の徘徊や、もの盗られ妄想、抑うつ、興奮といった「行動・心理症状(BPSDと呼ばれています)」についての研究をしています。昔は、“問題行動”と呼ばれていました。本人にとっても、介護者にとっても負担が大きい症状と言われています。そのため、このBPSDを軽減することが認知症ケアの重要な課題となっています。
しかし、介護における大切なこととして、BPSDを軽減することが目標になってはいけないということも重要な考え方です。つまり、たとえば認知症の人の興奮や、繰り返しの不安の訴えなどといったBPSDが、何らかの治療・対応により軽減したとしても、一日中テーブルにつっぷして過ごすようになってしまったり、長い時間横になって過ごすようになってしまったりしては、良い治療・介護を行っているとは言えないということです。BPSDが軽減した一方で、他の適切な行動も起こらなくなってしまったということは、介護の現場でよく見受けられるため注意が必要です。BPSDだけではなくQOLもあわせて考える、QOLを向上するためにBPSDを軽減するという視点が大切です。
ただし、認知症が重度になった際に、QOLをどのように測るのかということは現在も研究者の間では議論になっています。認知症の人が自分で評価したQOLと、周りにいる人が観察により評価したQOLの間に違いがあるということです。本人の評価を大切にすべきですが、認知機能が重度に障害された場合に、その人らしい生活の度合いがどの程度正確に評価できるか、周りの人の観察による評価よりも正確なのか、なかなか難しい問題です。こういうことについて、大学で一緒に考えてみませんか。

1) 介護福祉士養成講座編集委員会編 (2019) 最新 介護福祉士養成講座 3 介護の基本Ⅰ. 中央法規出版

学校周辺の清掃活動をしました!

5月22日 (月),1年生が学校周辺の清掃活動をしました。

介護福祉学科は,地域の方々を学内の「疑似デイサービス」にお招きし交流を行っています。

少しでも,日頃お世話になってる地域のお役に立てればと思っています。

 

 

 

 

ブログ連載テーマ「生活」 「生活の達人」 

ブログ 「生活の達人」

以前勤めていた大学でも、介護福祉士の養成に携わっていました。その時の同僚の先生のお話しから始めさせてください。

 

同僚といっても、大大大先輩です。その方は、看護師からスタート、養護教諭、結核病院の総婦長、特別養護老人ホームの施設長を歴任されて大学に来られた方です。当然のように厳しかったですが(恥ずかしながら、よく泣きました)、本当にいろいろ教わりました。

なかでもタイトルにあげた「生活の達人」という言葉が印象に残っています。これは、介護福祉士が目指すべきものとしてよくおっしゃってました。

ご存じのように介護福祉士は利用者の生活を支援するのが仕事です。支援する以上、介護福祉士自身が生活について良く分かっていないと、あるいは良くできないと支援などできないという趣旨だったと思います。

そのため、学生のみならず、教員に対しても、生活の細やかなやり方についていつも伝授されていました。先生にお会いしてから約20年になりますが、洋服すら満足に畳めません。残念ながら、先生の言われていた生活の達人にはほど遠い有り様です。

しかしながら、違うアプローチで「生活の達人」になれないか?実は、少しつかみかけています。前置きが長くなりましたが、今回は、そのことをお伝えしたいと思います。

唐突ですが、人生で、困難を感じたり、行き詰まりを感じたことはありませんか?

困難や行き詰まりを感じている時、人は“堂々巡り”をしています。どうしてこんなことになったんだろう。それは自分がダメだったからだ。自分がダメだったからこんなことになったんだ。と。

ネガティブに物事を考える癖のある人なら、犯人、原因探しに躍起になります。でも、犯人や原因を探すことがメインになりがちで、判明してもそれを変えていこう!とはなりにくいです。

そこで、考える癖を少し変えてみましょう。癖を変えるのは難しいので、困難や行き詰まりを感じるような出来事があった時に、

「この出来事は、自分に何を学ばそうと(得させようと)しているのか?」

と、質問してみて下さい。ただそれだけです。無理やり答えを出す必要はありませんし、起こった出来事を嘆き悲しんではいけないということもありません。ただそう問うだけです。

その問いは、心のどこかに引っかかり、質問時には答えが出なくても、無意識に答えを考えるのです。そして、ふとした拍子に答えが出てきます。(特にリラックスしているとき)

その結果、困難や行き詰まりは、どうしようもないものではなくなるのです。

実際、前の職場で自分の学科を廃止することが決まったとき、自分に質問をしました。その結果、クビになるかもしれない。そうなったら、家族を路頭に迷わせることになったしまう、どうしよう。

とはならずに、「自分は今から何を学ぶのか、何が始まるのか」と考えることができ、部署の廃止というピンチにあっても、精神的に健康でいることができました。

その結果、その一年後に声がかかり、大学教授から保育園の園長に転身することになったのです。園長として子どもたちと楽しく2年間過ごした後、東大阪大学に来ました。

馬込流の「生活の達人」になる方法をお伝えしました。これからも「生活の達人」を目指すべく研究を続けていきたいと思います。

連載テーマ「生活」:植物の生活史

今回の連載のテーマは「生活」であり、わたくしで3人目です。
大学校内に様々な花が咲き、新緑が芽吹きはじめる風景を眺めていますと、生活史という言葉が頭をよぎります。生活史とは、デジタル大辞泉によれば「1 生物個体の発生から死までの全生活過程。2 個人の生涯の歴史。」です。今花を咲かせたり、新緑を芽吹かせているこれらの植物の生活史は、どのようなものなのだろうかと・・・   植物は一年草から数千年生きる樹木まで様々です。同じ言葉を話す人間同士であれば、各人の生活史は言葉を通して知ることが可能(かな?)ですが、植物とは言葉を介してのコミュニケーションはとれません。しかし、最近の研究で、植物は様々な生き物と化学物質1)や音2)などを通してコミュニケーションをとっていることが明らかになっています。
将来、人間と植物がコミュニケーションをとり、植物からどのような生活史が語られるのかなーと想像しながら、花や新緑を眺めています。
文献
1)山尾 僚・向井 裕美・塩尻 かおり、植物における情報処理と柔軟な応答、計測と制御第61巻、第1号、2022年 1 月号、47-51。
2)Lilach Hadany et al., Sounds emitted by plants under stress are airborne and informative. 2023 Cell 186(7):1328-1336.e10.